火星

地球の陸地面積ほどしかない火星の地表。この地表に「運河がある」と過去に信じられていたのはご存じの方も多いと思いますが、実はその発端となったのはイタリア語を誤って翻訳したことに理由があったそうです。

2020年代に火星に人を送り込む計画が発表され、宇宙船で火星のまわりに「磁場シールド」を作り出してヒトが住める環境を作ることが検討される現代において、「火星には火星人がいる」という考え方は完全に否定されたものといえます。しかし、1900年代前半の宇宙科学では「火星には運河が存在している」と信じられ、それを作る火星人の存在や「火星人の地球侵攻」を危惧する考え方が広まっていました。そしてその起源は、たった一文字の「誤訳」によるものでした。

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数年に一度地球と火星が大接近した際に火星の観測を行なったのはイタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリです。スキアパレッリは口径22cmの屈折望遠鏡を用いて1877年、1979年、1881年に観測を行なった結果、火星の地表に線上の模様があることが分かったとして研究結果を発表しました。

スキアパレッリの論文では線上の模様を『canali』(イタリア語:溝、溝状のものの複数形)と表現したものの、アメリカで翻訳されたものが出回った頃には『canal』(英語:運河、人口水路)と誤って表現されてしまい、これが後に火星に運河が存在するということになり最終的には火星人論がでるまで発展していったそうです。

▼スキアパレッリが作成した火星の地図
スキアパレッリが描いた火星

実はこの運河を熱心に支持し研究していたのはアメリカの天文学者パーシヴァル・ローウェル氏です。ローウェル氏は私財を投じてローウェル天文台を建設し火星に300近い図形と運河を発見。「運河は灌漑用施設である」という説を発表、さらにそれを建設したのは火星人である主張していました。ちなみに彼は火星だけではなく水星の観測を行っているもののそこにも実際は存在しないスジのような線を描いています。

スキアパレッリは『運河』と表現されたことについてどのように対応していたのかはよくわからないのですが、彼の著書には溝は幅100~200kmあり距離は1000kmあるなどとしており、特に反論はしていなかったようです。また『火星の運河』についてウケが良かったのは当時の私達一般人であり、科学者の間では疑問視する意見が強かったとされちえます。