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日本、ロシア、チェコの国際研究チームは宇宙滞在中の宇宙放射線被曝について、国際宇宙ステーション(ISS)内部にある大量のウェットタオルで遮蔽材を作成するというアイディアで、低減方法を初めて実証することに成功しました。

長期間の宇宙に滞在で問題になってくるのは宇宙放射線の影響です。ISS軌道では地球の磁気である程度放射線は低減されるものの、それでも地上に比べ約100倍(1日あたり500~1,000μSv、0.5~1mSv)の線量に晒されます。

これがどれだけの数値なのかは判断が難しいのですが、NASAが各宇宙飛行士に設けている被曝量は合計で男性が800mSv(0.8Sv)、女性は600mSv(0.6Sv)で、何れの場合もこの数値を超える放射線量に晒された場合は二度と宇宙飛行士に選ばれることはなく、宇宙に行くことも不可能になります。こういった問題を避けるため、今後の長期に及ぶ宇宙滞在では優れた遮蔽材を使用した宇宙船の開発が必須となっています。 


日本の独立行政法人放射線医学総合研究所とロシア科学アカデミー生物医学問題研究所及びチェコ科学アカデミー原子核研究所はISS内部に大量にある、あるモノをが遮蔽材になることを実証しました。

ウェットタオルの遮蔽材
(a)ISSに搭載されいているウェットタオル、(b)4層にし組み上げた遮蔽材(重量67kg)、(c)ISS船内の配置例

研究チームが目をつけたのは入浴設備が無いISSで身体を拭くために大量に常備されているウェットタオルです。実際にISS船壁にウェットタオルを貼り付けたところ地上でのシミュレーション計算とほぼおなじ結果という37%の被ばく線量の低減効果を実証したと発表しました。

ウェットタオルは水で湿っており、水は放射線や中性子線の遮へい効果にも優れているというのはみなさんもご存知のとおりなのですが、高価な装置を使用せず既にあるもので遮蔽材を作れたということで注目を集めています。


ISS内部での実験はロシア人宇宙飛行士の協力のもと、2010年6月16日から同年11月26日までの約半年間行われました。測定結果では遮へいがない位置では一日当たり962µSvの線量値(4か所の線量当量の平均値)であったのに対し、遮へいがある位置では一日当たり593µSvとなりました。

放射線医学総合研究所は、既に搭載されている物資を遮へい材として利用しているため、すぐにも活用が可能であり、将来的に月面や火星等の長期間にわたるミッションを実施する上で宇宙飛行士の安全性の向上に寄与できるとしています。

参考:独立行政法人 放射線医学総合研究所