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アメリカの民間宇宙開発ベンチャー『ブルー・オリジン』は有人宇宙船を安全に避難させる打ち上げ脱出システムの初試験を実施しました。

人が乗り込む宇宙船は一般的に打ち上げ脱出システム (Launch Escape System: LES、Launch Abort System: LAS)というものが搭載されています。これは従来のロケットであれば先端部分の尖ったものがそれにあたるのですが、近年の有人宇宙船はコスト削減から使い捨てのLESではなく、必要となった時にのみ作動するものが搭載されています。



こちらがアメリカ現地時間10月5日に試験されたLESです。LESの試験は通常は陸上で本体のみを使用し実施されるのですがブルー・オリジンは実際の宇宙飛行に近い打ち上げ時に作動させるという方法で実施しました。

公式記録によると試験では地上4,893mの地点で動作し、宇宙船はブースターにより加速し7,092mまで上昇しパラシュートで安全に着陸できたとしています。一方切り離されたロケット本体はそのまま上昇しつづけ93,713mまで到達しそのまま地上に帰還しました。

打ち上げ脱出システム

打ち上げ脱出システム (Launch Escape System: LES、Launch Abort System: LAS)は冒頭紹介したように例えばソユーズ宇宙船を打ち上げるソユーズロケットやアポロ宇宙船を打ち上げたサターンVロケット、そしてオリオン宇宙船を打ち上げるスペース・ローンチ・システムでは共通してロケットの最先端部分に牽引式LESが搭載されています。

▼ソユーズロケットのLES
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こちらが牽引式LESの動作


牽引式LESは宇宙船が正常に宇宙空間に達した後は切り離され大気圏に落とされ処分されます。そのため打ち上げの度に高価なLESを捨てなければならないという消耗品となっていたのですが、ブルー・オリジンは必要な場合にのみ作動し再利用可能な押上式LESを採用しています。
またスペースXの有人宇宙船『ドラゴン』も押上式LESを採用しており陸上着陸用の推進エンジンとしても併用されています。

▼スペースXのLES


このように一般的には陸上で試験が実施されるのですがブルー・オリジンがテストした上空で作動する映像は非常に珍しいものになっています。

LESが実際に動作した例は世界で一例のみ1983年9月26日のソユーズT-10-1の有人打ち上げで、炎上するロケットからLESが作動したこにより宇宙飛行士らが助かっています。
ただ、スペースシャトルにはこのようなLESは搭載されていませんでした。厳密に言えばチャレジャー号爆発後以降脱出装置は搭載されたものの安定した飛行状態でしか使えないという粗末な物で打ち上げ時には使用できず、さらに自力で機外に脱出する必要があるなど事実上無いに等しいものでした。その後に発生したコロンビア号空中分解事故では誰も脱出することはできず乗員全員が死亡しています。