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秋田県と山口県に配備が決定したイージス艦のミサイル防衛システムをそのまま陸上に建設するというイージス・アショアというものです。しかし、この防衛システムに関して中距離巡航ミサイルを運用できるとしてロシア側が再び米ソ間の合意を引き出し日本が条約に違反していると主張しています。

ガルージン大使は、「(韓国と日本の領土における米国の全地球的ミサイル防衛要素の配備について)懸念する理由はある。なぜなら、弾道ミサイル防衛システム『イージス・アショア』には、迎撃ミサイルだけでなく、巡航ミサイルも装備する余地があるからだ。これは既に攻撃用兵器であり、ロシアと米国の間の中射程、及び短射程ミサイルに関する条約に対する違反となるだろう」と述べた。

Sputnik
この発言はロシアのガルージン駐日大使が述べているものですが、今年1月にもロシアのラブロフ外相が日本に配備されることを懸念する同様の主張をしていたことが伝えられています。

なぜ弾道ミサイルを迎撃する防衛ミサイルが中距離核戦力(INF)全廃条約に違反するとロシアが主張しているのでしょうか。全く的外れの主張になると考えられるのですがひとつづつ見ていこうと思います。

中距離核戦力全廃条約、所謂INF全廃条約はアメリカと旧ソ連(現在のロシア)との間に結ばれた軍縮条約の一つで、両国の中距離射程(500kmから5,500km)の弾道ミサイル及び巡航ミサイルを撤廃するというものです。また通常弾頭、核弾頭に限らず射程500kmから5,500kmの全てのミサイルが該当します。

ただし、中距離核戦力(INF)全廃条約の対象となっているのはあくまでも車両や地下、地上の陸上から発射されるものに限られます。同じものであっても潜水艦や水上艦、戦闘機や爆撃機から発射される中距離ミサイル『トマホーク』、ロシアが最近開発した空中発射型弾道ミサイル『キンジャール』などは条約には当てはまりません。(例:陸上から発射されるトマホークは×、空中・水中や水上から発射されるトマホークは○)
それ以外の短距離・長距離ミサイルであればどのような形式のものであっても運用することは可能です。

このようにINF全廃条約はアメリカと旧ソ連が結んだ条約なのですが、1987年12月に調印されるまでにそれ以外の国や地域に配備されているものについても話し合われています。例えば1986年1月に、当時のゴルバチョフは「2000年までにヨーロッパに配備されたINFミサイルを含むすべての核兵器を禁止してはどうか」という提案を発表したもののアメリカが拒否。一方でアメリカ側は1989年までにヨーロッパと日本を含むアジアのINFランチャーを段階的に縮小させるという妥協案を提案しています。そして、1986年10月には最終的にアメリカとロシアがINFシステムをヨーロッパからの撤去、およびINFミサイル弾頭数を100基に制限することを原則として合意しています(参考)。この合意について最終的にアジアはどのような対応をとることになったのかは不明です。

その上で独立国家の日本が配備するイージス・アショアが「米ソ間の条約に違反している」などとロシアが主張する理由についてはこのような合意に至る歴史があったためと考えられます。ロシア側からすと、そもそもイージス・アショアはアメリカ製であり運用は日本の自衛隊が行うもののアメリカの同盟国であるため「有事の際はアメリカ側の作戦でこれが運用される可能性がある」「実際はアメリカが運用しているのと変わらない」と考えていると思われます。

一方でアメリカの同盟国である韓国はどうなのでしょうか。韓国軍では玄武-2Cという陸上で運用する射程800kmの中距離弾道ミサイルを実戦配備しています。これに対してロシアがどのように反応しているのかは不明です。