SLS

スペースXなど民間企業が開発したロケットが打ち上げられる時代になりましたが、一方でNASAは超大型のロケット『SLS』の開発を続けています。民間企業のロケットとは異なり既に莫大な税金が投入され運用後もコストパフォーマンスが非常に悪いロケットになるのですが、なぜ開発が続けているのでしょうか。

かつてはNASAやESA、JAXAといった国家レベルの組織に限られていた宇宙開発の分野に、近年はイーロン・マスク氏の「SpaceX」や、ジェフ・ベゾス氏の「Blue Origin」などの民間企業が入るようになり、しかも画期的な結果を残すに至っています。民間企業のロケットは非常に高いコスト効率が特長で、性能も十分に優れているにもかかわらず、NASAは並行して独自のロケット「Space Launch System」(SLS)の開発を継続しています。

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その疑問に応えたのはNASAで有人探査部門のトップを務めるウィリアム・ゲルステンマイヤー氏です。何故安価なロケットではなくわざわざ高コストのSLS、スペース・ローンチ・システムの開発を続けているのでしょうか。

記事によると「すでにFalcon Heavyが打ち上げに成功し、運用コストが格段に低いことが示されています。このような状況では、『Falcon Heavyを4~6基ほど購入して月を周回する宇宙ステーション(ルナ・オービタル・プラットホームーゲートウェイ)の建設に利用すればいいのでは?』という声が挙がっています」と尋ねられたゲルステンマイヤー氏は、「SLSでなければならない理由」は、そのパワフルな打ち上げ能力にあると解説しています。

いったいどういうことなのか。最近打ち上げられたスペースXのファルコンヘビーロケットは高度400km前後の地球低軌道に63.8トンの打ち上げ能力があります。一方でNASAが開発しているSLSは仕様にも異なるものの70~130トンの打ち上げ能力を誇ります。また月軌道への打ち上げ能力についてはファルコンヘビーが18~22トン程度と推定されているのに対し、SLSでは26トン~45トンに達します。

そのため大型のモジュールを今後月軌道に運ぶには必然的に大出力のロケットが必要であり、ファルコンヘビーでも月軌道への人員輸送など程度の任務は可能なもののやはり宇宙ステーションの建設となると難しい部分があると主張しています。

何かおかしいSLSの開発

この説明を聞くと多くの人が納得してしまいそうなのですが、いろいろ調べるとおかしな点がいくつもできます。まず、『月、そして火星への有人探査を行う』としていたブッシュ元大統領のコンステレーション計画はオバマ前大統領が「我々は既に月に行った」などと主張し全面的に否定し凍結。代わりに小惑星の有人探査を行い火星への有人探査を実施するという計画の元開発されたがこのSLSです。その後、トランプ大統領によりオバマ前大統領の計画が見直され、結果的にブッシュ元大統領の計画のように月に行きそして火星への有人着陸を目指す計画に変更されました。

ブッシュ元大統領のコンステレーション計画もオバマ前大統領の案も、そしてトランプ大統領の案も『火星』という最終目標は同じなのですが、SLSでは想定していなかった有人月面着陸が復活しているなどそもそもロケットの仕様自体が月を考慮したものになっていない可能性があります。

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▲左からオリオン宇宙船、居住モジュール、PPE

そして致命的なのは「SLSじゃないとモジュールの打ち上げが難しい」というモジュール(PPE)の打ち上げが最新の予定では民間ロケットで行われることになった点です。ボーイング案の月軌道宇宙ステーション『ルナ・オービタル・プラットホームーゲートウェイ』で最大のモジュールとなるPPEの重量はわずか8.8トンしかなく、そもそもSLSでは無駄にスペックが大きすぎます。
(このモジュールは過去にオリオン宇宙船といっしょに打ち上げられる計画となっていたことから、合計30トンあまりの重量を打ち上げることになりやはりSLSが必要になる。ただし現在この計画は見送られており、次の居住モジュールの打ち上げでオリオン宇宙船と共にSLSで打ち上げられることになっている)

将来的に火星へ人類を送り込むためルナ・オービタル・プラットホームーゲートウェイから発進するという宇宙船の打ち上げや、今後実施される可能性がある有人月面探査計画での着陸船の打ち上げなどがSLSで行われる可能性がゼロではありあません。
民間企業は倒産するなどのリスクがゼロではなく、仮にそうなれば宇宙開発全体が停止するという問題が発生します。ただ、それでも莫大な予算を投じ開発を続けていることについては若干苦し説明しかできないというのが現状のようです。