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第二次世界大戦時と現在の戦争が大きく異なるのは電気で動く電子機器が大量に使われていることです。それはライト1つをとってもそうなのですが、このような電気で動く機器に電力を供給する移動可能な小型原子力発電装置の開発に向けて国防長官府が資金を要求したと報じられています。

今回開発に向けて資金を要求したのはOSD、アメリカ合衆国国防長官府です。国防長官直属の軍政機構で調達・技術・兵站、会計を行っていると言います。そんな、国の軍事分野における主要部門が要求しているのはプロジェクト・ ペレ(Pele)と呼ばれる、車両や空、海、鉄道などで移動することができる世界的に非常に珍しい小型原子炉です。

The Military’s Mobile Nuclear Reactor Prototype Is Set To Begin Taking Shape

国防長官府によると、国防総省による多種多様なミッションを遂行するため高出力で柔軟な電力を供給を可能とする輸送可能な原子炉の開発を目指したいとしており、要求する予算は6000万ドル(約60億円)で、2022年度中に設計作業を始めたいとしています。

予算書によると、2022会計年度におけるプロジェクト・ペレを開発目標としては1~5メガワットの電気出力がある移動可能な核マイクロリアクターの設計段階を完了し、建設準備をするというものです。

実はこの計画は2019年より始まっており、この時点で、BWXT Advanced TechnologiesとX-energy、そしてWestinghouse Government Servicesの3社が国防長官府の要請を受けて試作品の設計が行われていました。

そして2021年3月にX-Energy社とBWX社が今回のプロジェクト・ペレのプロトタイプの最終設計作業を開始する契約を獲得。今後、2年間かけ更に設計を改良し、1社が実際に試作品として小型原子炉を開発する予定です。
現在、プロジェクト・ペレは、これらの産業界のパートナーに加えて、米国エネルギー省(DOE)、原子力規制委員会、米国国家核安全保障局、米国陸軍工兵隊の協力を得て進められています。


要視されるのは当然安全性

原子炉となると私達日本人が痛いほど知っているのはその安全性についてです。当然、アメリカ側も安全性を最優先する設計を施すことを優先することになっており、国防省によるとこのプロジェクトの目標として、核拡散、環境汚染、オペレーターや民間人への人的被害などのリスクを最小限に抑える移動式原子炉を開発することだと説明しています。

国防総省の要求によると、今後開発予定の試作機は現場に設置後3日以内に稼働することができ、1週間で安全に電源をオフにし移動できる性能が求められています。

▼核燃料TRISO。一般的な原子炉のように高温に晒されても燃料(粒構造)が溶けることはない
TRISO

使用される燃料はTRISOと呼ばれるもので、例えば原子力発電所で使われているような核燃料(ペレット)とは構造が大きく異なります。原子力エネルギー局の資料によると「TRISOは地球上で最も堅牢な核燃料」と主張しています。
構造としてはウランと炭素、酸素の核燃料で構成されており、この核燃料は炭素及びセラミックベースの材料で3層でコーティングされ粒状にカプセル化されています。粒は非常に小さく直径は数ミリしかありません。これにより例えば冷却機能が失われたとしても、核燃料そのものの発熱により粒構造が溶けるようなものにはなっていないとしています。具体的な数値としては摂氏1800度で300時間以上の試験にクリアしたとしており、粒の損傷は無かったかもしくは最小限の損傷にとどまったとしています。


既存のシステムでは不可能なのか

問題なのは、なぜ今になってからこのような大規模な原子力の電源が必要になったのかです。アメリカ軍は現在年間で30テラワットアワーの電力と、1日あたり1,000万ガロン以上の燃料を必要としており、今後この需要は更に増していくことが予想されています。安全で小型で輸送可能な核反応は、米軍の増大するエネルギー需要を満たすために使用されると同時に戦地環境での任務を支援することになります。

ただ、今回開発される原子炉の出力としてはかなり小さいもので、例えばアメリカで最も小さい原子力発電所はニューヨーク州のR.E.ギンナ原子力発電所の出力は581MW。バージニア級原子力潜水艦に搭載されているS9G炉は40MWです。また研究利用の原子炉よりも小さいものになっているという特徴があります。

軍だけではない、原子力の宇宙利用

そして、今回の原子力プロジェクトは実は軍という範囲ではなく宇宙空間における原子力技術に開発に複数の動きに同調しているという見方もあるとしています。確かにアメリカでは既に原子力を利用したエンジンや他の惑星で使用可能な原子力を使用した電源の開発をおこなっているとされ、アイダホ国立研究所の専門家は「本格的な第4世代原子炉(つまり新世代の原子炉)の製造は、米国にとって地政学的に重要な意味を持つ」としています。





また「原子炉力が二酸化炭素削減という目的でもアメリカの発展を支援する機会を得るだろう」と主張しています。

事実として2020年にはホワイトハウスの国家宇宙評議会が『深宇宙探査と開発のための新時代』という文書を発表しており、そこには「商業的、非政府的活動の領域を拡大し、より多くの米国人が宇宙で生活し、仕事をすることを通じて、太陽系全体で人間とロボットの持続的な存在感をさらに確立するための戦略」という趣旨の説明しています。
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