SLS

いつ開発が発表されたのか…もはやNASAの職員すらも覚えていないレベルのSLS(スペースローンチシステム)。これはもともとスペースシャトルに代わりNASAが運用するロケットなどという位置づけだった記憶があるのですが、先日よくわからないオリオンという宇宙船を先端に搭載する作業が終わり、一応形としては完成したと報じられています。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間10月22日、開発中の新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」への新型宇宙船「オリオン(オライオン)」の搭載作業が完了したことを発表しました。SLSとオリオン宇宙船の双方にとって初飛行となる無人の「アルテミス1」ミッションは、2022年2月に実施される予定です。

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SLSとは何か。これは非常に単純で、スペースシャトルの付けられていた橙色の燃料タンクを拡張、更に左右のロケットブースターも拡張し2段式ロケットに拡張したものです。もちろんエンジンもスペースシャトルに搭載されてた『スペースシャトルメインエンジン(SSME=RS-25)』の改良型になっています。そのためSLSについてはスペースシャトルの派生型という位置づけとも言われることがあります。

SLSを語る上で批判の言葉しかないのですが、SLSについては元々コンステレーションという計画が元になっています。これは元アメリカ大統領であるブッシュ大統領政権が構想したもので、アレスIやアレスVといった「シャトルのパーツを改良して作る」という要するに今のSLSと同じ構想です。

▼アレスV
アレスVロケット

▼SLSの派生型、構想はコンステレーションのそれとほぼ同じ
SLS

スペースシャトルの引退と大混乱に陥ったアメリカの宇宙開発

当時NASAは2006年にコンステレーションの計画を発表。この計画では有人打ち上げを2014年に実施し、2019年には月面着陸を行うというものになっていました。

しかし、オバマ政権に変わったことで急に「俺たちはもう月に行ったから小惑星のサンプル持ち帰る」などと言い出したことでコンステレーションはさくっと中止。その後、小惑星を捕獲して地球付近に持ち帰るという、今考えると意味不明なことを計画し始めます。これも後に計画は縮小し、小さい岩石を持ち帰るようなものに変更されています。
一昔前に宇宙関連の番組でやたらと小惑星が云々言っていたのはこのオバマ政権化の宇宙政策が原因です。





その後、トランプ政権が誕生したことでオバマ政権時の意味不明な小惑星開発は中止。現在、有人月面着陸に再度方針が転換され、バイデン政権がそれを引き継いでいるというものです。つまりブッシュ大統領時のコンステレーションに戻ったということになります。
なぜ再び月面着陸を行うことになったのかについては「有人火星探査までの技術習得」とも言われているのですが、中国やロシアが月面着陸を行うと当時発表していたことや、極の氷の存在にも理由があるとされています。

国のトップが入れ替わるごとにロケットの目的地も変わるという混乱が発生したこともあるのか、現場ではロケットと宇宙船の開発が遅れに遅れる事態になります。当初オリオン宇宙船はスペースシャトルの引退と合わせて運用されることになっていたものの、コンステレーションでもアレスIというロケットでは打ち上げが困難になるなど混乱も発生しています。
結局、置き換えには到底間に合わず過去に1度デルタロケットに載せられ無人打ち上げが行われたことがあるものの、その後は隠居となりました。

一方でNASAは宇宙飛行士の打ち上げ能力を失いロシアに頼るという恥晒しのようなことを何年も続け、ようやくアメリカはスペースXなどが台頭したことで再び宇宙飛行士の打ち上げ能力を獲得。これはつい最近のことです。

そして2021年というスペースシャトル引退から実に10年という歳月が流れた現在、ようやくSLS初号機が完成しつつあります。このロケットについては来年2022年2月に設定されています。



ただ、この間既にスペースXといった大変な技術力をもつ民間宇宙開発企業が台頭しています。NASAは「民間企業は地球低軌道で俺たちは深宇宙の有人探査を行う!」などと説明していたものの、ロケットと宇宙船開発に遅れに遅れ、莫大な税金を投入し、高コスト・かつ再利用もできない世代遅れのロケットを運用しなければならないという現状をどう受け止めているのか。これはNASAで働く職員の多くが薄々気づいていると考えられます。

「月周回軌道に作る宇宙ステーションにSLSを使う」などとNASAは説明しているものの、それは民間企業でも既にできるものであり、アメリカの宇宙開発に寄生するかのようなSLSとオリオン宇宙船は存在意義はこの10年間で既に失われています。