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2018年に火星軌道へ人類を送る計画があることはご存知でしょうか。計画では打ち上げから地球へ帰還するまで500日の旅になるのですが、問題となるのは宇宙船以外も乗組員にもあるとのことです。

「過去40年間、人類は月より遠くへ行っていない。そろそろこの空白期間を終わりにすべきだ」ということで、非営利団体、インスピレーション・マーズ財団は2018年、男女2人搭乗の火星接近飛行を計画を発表しました。財団は世界初の宇宙旅行者で大富豪のデニス・チトー率いる組織なんですが、資金集めから宇宙船の開発など様々な問題点を抱えているといいます。

ISSであれミールであれ、宇宙に出た者はこれまでも多くはなく、基本的には選りすぐりのエリートが送り込まれています。それらは技術面が優秀なだけではなく、特に長期滞在となる宇宙では狭い環境では、精神面でもタフで協調性のある人間でなければならないというのは基本的な条件です。

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写真:2018年に計画されている火星接近飛行。火星ミッション用宇宙船にはスペースX社のドラゴン、もしくはボーイング社のCST-100、ロッキード・マーチン社のオリオンを改造したものを挙げている。

今回計画されている インスピレーション・マーズ財団による火星接近飛行についても同様に乗組員の精神的な問題が指摘されています。財団によると、今回火星へ送り込まれるのは2名でアメリカ人の男女1組で構成すると発表しています。理由については、一方の性別だけでは人類を代表しているとはいえないというものです。また女性については宇宙空間で受ける放射線の影響により出産可能年齢を過ぎていることが条件と成っています。

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写真:バイオスフィア2

さて、501日という長期に及ぶ飛行でどのような問題が発生するのか。人間の精神面についてフロリダ州にあるエンブリー・リドル航空大学で過酷な環境に置かれた人間の行動を研究しているジェイソン・クリング氏は、「技術的な課題より大きいと思う」と話しています。

また、今回この計画の記者会見に出席した、アリゾナ州で地球外を想定した閉鎖環境の研究(バイオスフィア2)を研究しているジェーン・ポインター氏も「バイオスフィア2で暮らしていた18カ月、内部運営に不可欠な用件を話す以外はまったく口を利かないメンバーもいた」ということから、人間関係の問題性を指摘しています。
そして、2人という人数について疑問の声を挙げている研究者もおり、エンブリー・リドル航空大学のクリング氏は「さまざまな問題を招く可能性がある。1カ月くらいであれば、誰とでもうまくやっていくことができる。しかし、1年半やそれ以上となれば話は別だ」とし、万一仲がこじれた場合、間に入る者もいないし、停滞した作業は誰が引き受けるのかと指摘しています。

ポインター氏によると、今回選ばれる1組は仲の良いカップルが理想的だとし、理由についてお互いを知り、信頼し合う相手は、計り知れないほどの助けになる」としています。実はポインター氏もバイオスフィア2の研究に参加し、ここで知り合った女性と結婚しています。

適切な人選を行いきちんと訓練すれば、乗組員の精神的な問題はいくらか回避、軽減できるという指摘もある一方、いくら優れた機材を揃えたところで、人間関係という問題から最悪な自体が発生することも十分予想されます。

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写真:最高技術責任者を務めるテーバー・マッカラム氏

何かトラブルが起こった場合に宇宙飛行士を救出するためのバックアップ計画などは存在しない計画について、インスピレーション・マーズ財団の最高技術責任者を務めるテーバー・マッカラム氏は「多くの人から、これはかつてアメリカが得意としていたが、今ではリスクを恐れてやらなくなった種類の大胆なアイデアだと言われる」とし、「カプセルとミッションは可能な限り安全なものにするつもりだが、それでも間違いなく史上最大のリスクが伴う。前へ進むにはそれしかないと考えている」と述べています。

また、人間の精神面については「火星に行くような状況下では、同行する相手が何らかの意味でパートナーでなくてはならない。そうでないとプレッシャーに耐えられない。夫婦が望ましいと考えているが、募集はカップルだけに限定しない」と述べています。

参考:National Geographic